風花舞わない静岡、どか雪降る青森 / 言葉と地域性
静岡の冬空は澄んでいる。晴天の日が多く、雨もほとんどふらない。陽炎立ち込める真夏に霞む富士山も、冬になるとはっきりとその形を捉えることができる。からっ風に吹かれ、空気中の水分が少なくなり遠くまで見渡せるようになるからだ。
そんな静岡でも極稀に、一年に一度あるかないかくらいか、雪が降ることがある。量は少なく、粒も小さく、湿っぽくて地面に落ちるとたちまち消えてなくなってしまうような雪だ。空模様はまちまちで、どんよりとした重たい雲が覆いかぶさる日もあれば、ただの薄暗い曇り空の日もある。不思議なことに、青空広がる晴天の日に雪が降ることもある。どこからか遠く運ばれてきた雪がふわふわと舞い散り、通り雨のように数時間で降り止む。そのような状況を、静岡では「風花が舞う」と表現する。文字通り風で運ばれてきた花が舞い散るような可愛らしい雪で、珍しく見られる自然現象に子供も大人も心躍ってしまう。
つい先日、静岡の友人から今日は静岡でも風花が舞うくらい寒いと連絡が来たことがあった。私が今いる青森に比べれば非常に温暖ではあるが、静岡県で雪がちらつくというのはかなり寒い、もしくは最上級に寒いということを意味している。今年は全国各地で寒い日が続いていて静岡も例外ではないようだ。
そんな状況に静岡でもなっていると青森県の人たちに話して驚いたのは、「風花が舞う」という表現が伝わらないことだった。一人や二人ではなく何人かに聞いてみたが、なんのことを指しているやらさっぱりといった反応で、この言葉自体が全く使われていないようだ。方言だったのかと思い調べてみると、風花というのは俳句の季語で用いられる言葉で方言ではないとのことだった。ただし、使われているのは静岡などの雪がめったに降らないエリアだけで、地域限定で普及している言葉らしい。雪が降ることを珍しがり、美しいと感じ、愛でる文化と地域性を持っている地方ならではの言葉の伝わり方があるんだなと感心した。
その一方で、青森県では雪をどのように呼ぶのか。
太宰治著「津軽」に出てくる一説
津軽の雪
こな雪 つぶ雪 わた雪 みづ雪 かた雪 ざらめ雪 こほり雪 (東奥年鑑より)
とあります。
青森地方気象台のページに見つけました。この雪についての説明を。
この太宰が記している「東奥年鑑」というのが、1941年(昭和16年)のもののようです。
津軽の雪 | 津軽半島観光アテンダント
なんとまあいろんな呼び方がある。この呼び方は日本人の自然表現の多さの一例ではあるものの、実用的に見ても言葉で状況を伝えるのに意味があったのだと思う。青森県に来るまで雪というと、ふわっとしていてすぐに太陽の光で溶けて消えるものというイメージだったが、実際に来てわかったのは積雪後にはジャリジャリしたものもあれば氷に近いものもあり、ふわっとしたものもなかにはあって遠方の誰かに状況を伝えるためには言葉の使い分けの必要性があるのも理解ができる。なお、厳密に言うと私は津軽地方(ざっくりと言うと青森県の西側エリア)に住んでいるわけではないので、これらの七つの使い分けを完全に理解しているわけではないが、それっぽくわかるところはある。
しかしながら、実際にこれらの言葉が日常的に用いられていることはあまり見たことがない。それは私が、前述の通り津軽地方ではなく南部地方(青森県の南東部)に住んでいるためなのか、今はそれほど細かい使い分けがされなくなっているのか、あるいは県外から来た自分になんとか雪という言葉を使ってもどうせ理解できないだろうということであえて使わないようにしているのか、文脈的に必要がないケースが多いからなのかはわからない。
実際によく聞くのは「ドカ雪」という言葉だ。文字からなんとなくわかるように、ドカンと短時間に降る雪のことを「ドカ雪」と呼ぶ。これは文脈と言葉の雰囲気で理解に困ることがない言葉だった。特に今年以上に昨年は積雪が多かったようで、例えば「去年のドカ雪に比べれば今年はまだましだ」といったように使われている。雪の量が生活に与える影響は非常に大きく今でもよく使われている地域に根づいた言葉である一方で、雪の状態は従来に比べてスタッドレスタイヤや雪対策の技術が発展した今は、一部の運送業を除いてあまり意味を持たなくなり、それほど使われなくなったのかなと思ったりした。人の力で除雪をするとなると雪の状態次第で必要な労働量が大きく変わるが、重機を用いれば固かろうと柔らかろうと影響はさほどなさそうに見える。
さて、今日、2022/02/10は首都圏でも積雪の恐れありとの予報が出ていた。静岡でもその可能性があると風のうわさで聞いたが予報では少なくともそんなことはないようだ。なんなら静岡だけは降らないまであるのかもしれない。やっぱり静岡は暖かい。
ヤフーニュースより引用
https://news.yahoo.co.jp/pages/20220209
雪降り続ける青森から風花すら舞わぬ静岡を羨みつつも、来る春を願う気持ちは同じなので、辛抱強く季節の移ろいを待つばかりといったところ。みんなあとちょっと頑張ろうな。
でも、花粉症の人は辛いかな。