Zico39のいろいろ

Just another life

日記

県立図書館の遠方貸出トラックに乗って。

青森県立図書館では、ウェブ予約をすることによって県内であればほぼ全域で本を借りることができる。大きな本屋や図書館が近隣にない私のような県民にとっては、非常に便利なサービスで、最近良く活用している。毎週木曜日に発送してくれるので、それまでにウェブ上で予約を取れば無料で近隣の公民館や図書館に配送してもらえる。ありがたいことだ。新着図書のセンスも私好みでなかなか良い。

県立図書館からの本は青い布製の袋に入れられて、各市町村に向けて発送される。私が指定した公民館に本を取りに行くと、受付から見えるところにドンと青い袋が見えるので資料が届いたのだとすぐわかる。大抵の場合は自分の袋だけでなく、他の人が頼んだ資料も置いてあるが、自分のものだけがおいてあることもある。おそらく誰も何も頼まない週もあるだろう。

各地に発送を行っている県立図書館は、ちょうど青森県内のど真ん中の青森市にある。ここからトラックで担当者が配送を行うとしたら、津軽、下北、南部の3つのブロックに分かれて、3人のドライバーがそれぞれ半日から一日かけて回ることになると想定される。青森県には東側と西側を隔てる八甲田山脈があるため、ぐるりと一周というのもそれほど簡単ではない。また、突き出た半島もいくつかあるので1台で回り切るのは非現実的だ。

もし自分がその配送ドライバーの職務にあたることができたら、それは間違いなく毎週の楽しみになるだろう。

それぞれの図書館を巡るドライブ。毎週のルートは、貸出返却の配送先次第で異なるはずだ。大きめの図書館、青森県内で言えば青森市、八戸市、弘前市、については必ず訪問するだろうが、小さめの町村に関しては利用がないケースもあり寄らないこともあるだろう。きっとそんな時には町と町の間を移動するときに普段走らないような道を使ったり、新たな発見があったりと仕事に意外性が生まれて毎日旅をしているような気分になれそうだ。GPS監視システムもないだろうから、道の駅にふらっと寄ったり時間があれば温泉に入って休憩もできる。なんと素晴らしいことか。

擬似旅行だけでなく、本を運ぶという行為自体もかなり楽しめそうだ。

本が入った青い袋には貸出者の名前とIDは記載されているが、どんな本を借りているかは外からはわからない。本の厚みと感触で何冊くらい借りているかは把握できるが、具体的にどんな内容の本がどんな人に届くのかわからない。ただ、内容はわからずとも3ヶ月もすれば頻繁に貸出される利用者の名前はきっと自然に覚えてくる。

その先にいる見えない人の顔がちらつき出すと、加速度的にその人のことが気になる。毎週のように何冊も本を熱心に借りて読んでいる年齢も性別もわからない相手をもっと知りたくなる。その本に手がかりがあるのはわかっている。

しかし、それを覗こくとは許されない。プライバシー保護を理由に図書館が開封行為を禁じているに違いないからだ。一度開いたからと言って証拠が残る仕組みがあるわけでもないので、覗いてもまずその行為が明るみに出ることはないし、懲戒されるリスクもまずないだろう。

それならば軽い気持ちで覗くか。

答えはおそらくノーだ。

覗いた瞬間に何が入っているかを知り、それまで個人の興味関心のかたまりである秘密を運ぶ、どんな秘密かわからない情報を運ぶことによってもたらされる特別感が失われてしまう気がするからだ。同じ人の本を何週も連続で開け続けると傾向が見えてドキドキしそうではあるが、ある程度人がわかってくると、もう少しはっきりとした輪郭が描かれてくると、相手にも配送物にも興味を失い、配達という行為がとたんにつまらなくなりそうだ。

今まで運送業で働いたことはないが、きっと従事している人は中に何が入っているんだろうと興味を持ち、好奇心を満たしたい思いに駆られることがみな一度くらいはあるだろう。一般荷物の場合は原則的に密封されているため、開けることすなわち違法行為になるので実際に手が動くケースはまずないと信じるが、閉じられたものは開けたくなるのが人間の本能だ。それでもニュースで問題になっているのはあまり見ないので、実際にはまず起きていないのだろう。そもそも犯罪行為なので選択肢として脳裏にちらつかないものなのかもしれない。

一方で、開封行為がまずバレない図書館の配送でも、本当にその気持を抑えられるだろうか。

業務の最終日だったらどうだろう。もうその業務自体に携わることのない最終日、一度だけなら、最後の一回くらいは、最後のチャンスなのだからと覗いてしまわないだろうか。数年間かけて好奇心でパンパンに膨らませた巨大な風船を針で突き刺し破裂させるのは、さぞかし気持ちのよいことだろう。してはいけないことに手を出す背徳感もいい。

そんな思いを胸に、今日も配送トラックは県内を巡っているのだろうか。

今朝、図書館から指定公民館に資料が到着したとメールが届いた。早速受付に向かったが、いつもの場所に置いてある青い袋は見当たらなかった。事務員に聞いてみるもまだ届いていないとのことだった。予定時刻にメールだけ来て実際にはまだ来ていないこともある。

また来ると伝えて玄関から出るときに、青い袋をいくつか抱えて足早に公民館に入っていく人とすれ違った。入口付近の駐車場にはSAGAWAのロゴの小さなトラックが停まっていた。それを横切ろうとしたときに駆け足気味に追いかけてきた公民館の事務員が、ちょうど県立図書館の資料が届いたと言いながら例の青い袋を運んできた。私はそれを受け止めて自分の車にまた歩き出した。

昨晩降り積もった地表の雪は、雨に溶けて排水口に吸い込まれていった。

-日記
-,